文章を書くのが苦手なエンジニアが、ログを残し続けてきた理由
文章を書くのが苦手なエンジニアが、ログを残し続けてきた理由
Memoreru の自分のページを作って、最初の記事を何にするかでだいぶ迷った。
エンジニアは文章を書くべき、と言われる。テックブログを書け、Zenn に上げろ、Qiita に投稿しろ、社内ナレッジを整備しろ、登壇しろ。新卒の頃から数えると、10回くらい聞いてきた気がする。
そのたびに、自分は「文章書くの苦手だから」と言って逃げてきた。
ところが先週、自分の git log の出力量を集計してみたら、苦手とは言いにくい数字が出てきた。整理しておく。
自分が書いた「文章」を集計してみた
過去1年、業務リポジトリの git log のうち、自分のアカウントのコミットメッセージだけを抜き出して、文字数を集計してみた。
| 種類 | 件数(1年) | 平均文字数 | 累計文字数 |
|---|---|---|---|
| コミットメッセージ | 約2,100件 | 約60字 | 約126,000字 |
| PR 説明文 | 約180件 | 約400字 | 約72,000字 |
| Linear のタスクメモ | 約260件 | 約180字 | 約47,000字 |
| Notion の技術ドキュメント | 約45件 | 約1,200字 | 約54,000字 |
| Slack の長文(300字超) | 約90件 | 約500字 | 約45,000字 |
合計で約34万字。新書5冊分くらい。
ちなみに同じ1年で書いた「テックブログ」「Zenn 記事」は0件だ。社内Wiki以外の「公開された文章」は本当にゼロ。
ここで矛盾に気づいた。自分は文章を34万字書いている人間で、なおかつ「文章を書くのが苦手な人間」だと自認している。両立させているのは何だろうか。
ログは未来の自分宛、ブログは知らない誰か宛
集計を見ながら考えていて、線が引けた気がする。
自分が大量に書いてきたのは、全部「読み手が明確に決まっている文章」だ。
- コミットメッセージ → 半年後の自分とレビュアーのS
- PR 説明文 → 同じチームのレビュアー、たぶんSかH
- Linear のタスクメモ → 明日の自分
- Notion 技術ドキュメント → うちのチームに次に入ってくる人
- Slack の長文 → そのチャンネルの参加者、だいたい顔が浮かぶ
逆に、自分が書けなかったのは「読み手が不特定の文章」だ。テックブログを書こうとすると、想定読者がぼんやりする。「Web エンジニア全般」「個人開発に興味のある人」「TypeScript やってる人」。誰に向かって書いているか分からなくなると、自分の場合、急に書けなくなる。
これは「文章が苦手」というよりは「読み手が見えない文章が苦手」だと言い直したほうが正確だ。
エンジニアのログ文化は、たぶん全員わりとそう
これは自分だけの話ではない、という気がする。
うちのチームのSは、テックブログを1本も書いていないが、PR 説明文がいつも丁寧で長い。コードの変更箇所だけでなく、「なぜこの設計にしたか」と「次に触る人への注意」が必ず入っている。Sの PR 説明文を集めて並べたら、それだけで技術ブログのアーカイブになる気がする。
同期のHは Notion の技術ドキュメントが上手い。新人が入ったあと、Hが書いた「うちのリポジトリ構成と入門手順」を全員が読む。あれは公開していい品質だと思うが、Hも「外向けの記事は書けない」と言っている。
「公開してない文章ならいくらでも書く、公開する文章は書けない」エンジニアは、たぶん業界に何万人もいる。みんな同じことを言っている気がする。「テックブログ書こうと思ってるんですけどね」と言って、書かない。3年そう言っている。
なぜ「公開」が壁になるのか
少し考えてみたが、たぶん2つある。
1つ目。公開した瞬間に「自分の名前」が紐づく。社内 Notion なら間違っていても直せばいい。公開記事は誰かにブックマークされ、検索される。間違ったまま残ると、自分の名前が変な情報と結びつく。エンジニアが一番嫌う状態だ。
2つ目。読み手の解像度が下がると、書く前の準備量が桁違いに増える。社内向けなら「あの人が読む」と思って前提を省略できる。公開向けは前提を全部書かないといけない。書きたい本題に入る前に、TypeScript の説明、Next.js の説明、データベースの説明、と入門知識を毎回書き直すのが面倒で、結局やらない。
ログを残し続けられるのは、この2つが両方クリアされているからだ。書いた文章が公開されないから名前が紐づかないし、読み手が決まっているから前提を省略できる。
Memoreru で書き始めるという、ちょっとした実験
それで、Memoreru で書き始めることにした。
Memoreru は公開記事のプラットフォームだが、なんというか、社内 Notion と公開ブログの中間くらいの距離感がある気がする。フォロワーがいるわけでもなく、SEO 競争に巻き込まれるわけでもなく、ただ「自分の記録」を置いておく感じ。
書いてる文章のターゲットは、結局は「半年後の自分」と「同じことで悩んでいるエンジニア(顔は知らないが、たぶん似たような人)」の2つだ。完全な公開でも、完全な閉鎖でもない。
これなら書ける気がする。少なくとも、今この文章は書けている。コミットメッセージを書く感覚で、ちょっと長めの段落を続けて書いているだけだ。
結論っぽいもの
文章を書くのが苦手なエンジニアは、たぶん文章を書くのが苦手なのではなく、「読み手が決まっていない文章」が苦手なだけだ。
逆に言うと、読み手を1人に絞れば、エンジニアは年34万字くらい平気で書いている。コミットメッセージも PR も Notion も、全部文章だ。
ということは、テックブログを書けない自分は、書く能力がないのではなく、想定読者を勝手に「Webエンジニア全般」みたいに広げすぎていただけかもしれない。「半年後の自分」「同じスタックで悩んでる誰か」くらいに絞れば、書ける、という仮説が今のところ立っている。
これも検証可能な仮説なので、Memoreru で30本くらい書いてみて、どれが続いてどれが止まるか、自分で見てみる。だいたいの問題は記録を取れば何か見える、というのが、自分がこの3年で学んだほぼ唯一のことだ。
ちなみにこの記事も、書いている途中で「これは公開する文章じゃないか、読み手が広い」と一瞬手が止まった。止まったが、続けた。たぶんこの「一瞬手が止まる感じ」が、エンジニアが公開記事を書かない理由のすべてだと思う。