河川護岸の劣化サインを、巡回10分でどこから見ているか

2 か月前
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河川護岸の劣化サインを、巡回10分でどこから見ているか

うちの自治体の所管河川は、準用河川と普通河川を合わせて約45km。
これを年に2回の定期巡回で回すので、1ヶ所あたりにかけられる時間は徒歩で10分程度しかない。雨季前と台風後の臨時点検はもう少し時間をかけるが、定期巡回はこの「10分」をどう使うかで、見つけられる劣化の量がだいぶ変わる。

この10分の使い方を、私は20代の頃から少しずつ組み立ててきた。
ことし春に河川担当に異動してきた30代のSさんに、口頭で何度か説明したが、まとまった文章にしておかないと渡し切れない気がしてきた。書きながら自分の頭も整理する。

順番を決めずに見ると、必ず何かを落とす

新任の頃、私は護岸を見るときに「目地のひび割れ」だけを追いかけていた。
ひびは見つけやすいし、写真も撮りやすい。点検記録の項目数だけは稼げる。ただ、当時の上司のMさんから「広く見てから細部に入りなさい」と何度も言われた。当時はその意味がよく分からなかった。

意味が腑に落ちたのは、ある夏の臨時点検でのことだ。
台風通過後の準用河川を歩いて、目地のひびを丁寧に拾って戻った。翌週、別の係の応援が同じ箇所を確認したら、根固めの捨石が大きく流出していて、橋台の取付部に洗掘が進行していた。私は橋台のすぐ脇を歩いたのに、足元の目地ばかり見ていて、上流方向の捨石の散らばりに気づかなかった。あれが、私にとっての分水嶺だった。

それからは、巡回10分の頭の3分を、必ず「広く眺める」に使うようになった。
細部から入ると、視野が固定されて、もっと重要な変状を見落とす。これは自分の経験で覚えた順番だが、点検要領にも似たことが書かれている。書かれていることを、現場で実装できるかどうかが、係長になっても私の課題だと考えている。

私の10分の配分

いまの私の10分は、だいたい次の配分で動いている。

見るもの着眼点
0-3分護岸全体を上下流から眺める法線のたわみ、笠石の通り、植生の不自然な茂み
3-6分水際線を歩く根固め・護床工の沈下、捨石の流出、洗掘
6-8分目地・継手を見る目地材の脱落、伸縮継手の段差、コンクリート断面欠損
8-10分背面・天端を見る沈下、空洞化の予兆、排水工の詰まり

順番には意味があるので、後輩には「飛ばすな」と言っている。
ただし、水位が高い日や立入りに危険のある区間では、水際を最後に回したり、対岸からの遠望で代替したりすることもある。安全側に倒すのが基本だ。これは復命書にも理由を残しておく。

段階1: 上下流から法線を眺める

最初の3分は、その区間の端から端まで、護岸の法線を遠目に見る。
法線がわずかに膨らんでいたり、笠石のラインが部分的にカクッと落ちていたりすると、背面の土圧変化や局所沈下を疑う。これは近づきすぎると分からない。30mほど離れた位置から、目を細めて見るのがちょうどよい。

植生の茂みも、この距離で見るほうが情報量が多い。
法面の一部だけ草が異様に茂っている箇所は、湿気が抜けにくくなっている可能性がある。背面からの漏水や、目地からの吸出しが起きている初期サインのことが多い。これは現役の係長になっても、年に1度か2度しか拾えない。だがその1度が、後で大きな修繕につながることもある。

段階2: 水際線で根固めと洗掘を確認する

次の3分は、水際を歩く。
歩けない区間では岸から覗き込む。ここで一番気にしているのは、根固めブロックや捨石の散らばり方と、護岸基礎部の前面の地形だ。前面が深掘れしていれば、洗掘が進んでいる。出水期の前後で形が変わる箇所は、要対策の候補として記録に残す。

捨石は、最初に並べたときの輪郭がだんだん崩れていく。
新しい捨石は角張っていて、隣の石との隙間が小さい。年数が経つと、角が取れて丸くなり、隣との隙間が広がる。さらに進むと、1個2個が下流側に流されて、列の途中に「歯抜け」ができる。歯抜けが出始めたら、その上の護岸基礎は早晩に影響が出てくる。前回写真と並べて比較するのは、この段階だ。

PCa製の根固めブロックは、目視だけだと判別が難しい。
水中部に潜り込んでいるブロックの動きは、上から覗いただけでは分からない。これは限界だ。出水後に水位が下がったタイミングで、上流側から並びを見る。あるいは、ドローンが配備された自治体は別だが、うちはまだそこまで予算が動いていない。

段階3: 目地と継手の細部に入る

このあたりで6分が経過する。
ここでようやく、目地材の脱落や、コンクリートの断面欠損、伸縮継手の段差を見ていく。順番を後ろに置いているのは、これらが「ピンポイントで撮りに行けば後でも記録に残せる」種類の変状だからだ。広域の変状は、その場で気づかないと記録に残らない。

目地材の脱落幅は、私はメジャーを当てず、自分の指の太さで測る癖がある。
指1本(15mmくらい)入る幅、指2本(30mmくらい)入る幅、と分けて記憶する。後で記録に書くときに、メジャーの数字に直す。これは厳密ではないが、現場のスピードで覚えるには十分だ。Sさんにも「指でいい」と教えている。厳密な測定は、補修設計時に別途やる。

段階4: 天端と背面の最後の2分

残りの2分で、天端と背面に回る。
ここで見るのは、護岸天端の沈下、背面の空洞化の予兆、排水工の詰まりだ。天端の沈下は、水際から見ても気づかないことがある。背面に回って、ガードレールや植栽との取り合いを見ると、わずかな沈下が見える。

排水工の詰まりは、出水時に護岸背面に水圧をかける原因になる。
落ち葉や土砂が口を塞いでいないか、桝の蓋が外れていないかを確認する。これは1分もかからないが、忘れがちなので最後にチェックリストとして必ず通す。

「広く→細部」の順番が、後輩に渡しにくい理由

順番を文章にすれば単純だが、後輩に渡すのは難しい。
新任のSさんは、最初の3分で「広く眺める」と決めても、すぐ細部に目が動いてしまう。目地のひびや、コンクリートの汚れに視線が引かれる。私もそうだった。広域を眺めるのは、慣れていないと退屈で、何を見ているのか分からない時間に感じる。

「何を見るのか」より、「何を見ないか」を伝えるほうが効くと考えるようになった。
3分間は目地を見ない、コンクリート面の細かい汚れも見ない、植生の珍しい花にも反応しない。視線をあえて細部から外す訓練が、最初の段階では必要だと思う。これは説明しないと身につかない。


明日は午前中、所管区間の上流側を回る予定だ。
先月までSさんと2人で歩いていたが、今度はSさんに先導してもらって、私が後ろから見ることにしている。順番通りに動けているか、視線がどこで止まっているかを、後ろから観察する。指摘は巡回後の事務所で、コーヒーを淹れながら静かにやるのがいい。現場で言うと、本人が萎縮することがある。これは自分が新任の頃に学んだ作法だ。

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