猫背の患者にまず聞いている3つの質問と、その順番を変えた理由
猫背の患者にまず聞いている3つの質問と、その順番を変えた理由
猫背を主訴に来られる方には、最初に決まった3つの質問をしている。
内容そのものは4年ほど変えていないのだけれど、聞く順番だけは去年の冬に一度入れ替えた。順番を変えただけで、出てくる答えの濃さがけっこう違う。今日はそのことを少し書いておく。
問診票には項目が並んでいるが、私はあまり順に追わない。話の流れの中で、必要なものを必要な順で聞いていく。ただ猫背の場合は、最初の三つだけ、自分のなかで固定している。順番を変えてからの一年で、自分のなかでも少し整理がついてきた気がする。
1. どんなとき気になりますか
以前は「いつから気になりますか」を一番先に聞いていた。
鍼灸学校で習った通りの、発症時期から遡るかたちだ。間違ってはいないと思う。ただ、開業3年目あたりから、この質問を最初に置いていることに少しだけ違和感があった。
患者さんは「いつから」と聞かれると、まじめに思い出そうとする。半年前か、一年前か、もっと前か。答えを探している間、表情が固くなる。で、出てくる答えはだいたい「気がついたら」「いつのまにか」みたいなものだ。慢性的な姿勢の不調は、本人にも発症日が分からないのが普通だから、これは当たり前のことだろう。
順番を変えてから、「どんなとき気になりますか」を最初に置いている。
こちらだと、答えは具体物になる。パソコンを長く触ったあと、洗い物をしているとき、子供を抱き上げたあと、というふうに、生活の段取りごと出てくる。本人も思い出しやすいし、こちらにとっても情報量が桁違いに多い。
「いつから」の答えは曖昧でも仕方がないが、「どんなとき」の答えは、たいてい鮮明だ。先にこちらを聞いておくと、後の問診全体の解像度が上がる気がする。
2. 朝と夜では、どちらがつらいですか
二つ目に聞くのはこれ。順番は前から変えていない。
朝のほうがつらいのか、夜のほうがつらいのか。この一問で、私のなかでは見立ての方向がだいぶ絞れる。
朝の起き抜けに肩が固まっている方は、寝ている間の姿勢か枕、それから血の巡りの問題を疑う。夜にかけて重くなっていく方は、日中の姿勢の積み重ねや、目の使い方、それと気滞のことが頭に浮かぶ。
ここで「どっちも同じくらい」と答える方も、わりといる。
その場合はもう一段階聞く。週末と平日では違うか、休んだ翌日はどうか。そうやって患者さん自身も気づいていない波を見つけにいく。本人のなかでまだ言葉になっていない感覚を、こちらが拾えるかどうかは、けっこうここで決まる気がする。
3. 鏡で自分の姿勢を見たことはありますか
三つ目はこれにしている。順番を変えたきっかけは、実はこの質問だった。
去年の冬、ある方に「鏡で自分の姿勢を見たことはありますか」と聞いたとき、しばらく黙ってから「最近は見ていない」と返ってきた。最近、というのが、3ヶ月なのか、3年なのか分からないくらいの間があった。それで、続けて「気になる前は見ていましたか」と聞いたら、その方は少し笑って「20代の頃は鏡の前でよく服を選んでいた」と話してくれた。
その瞬間に、ああ、自分の身体と自分の関係って、ある時期から急に切れることがあるんだな、と思った。
切れた時期の前後で、生活の何が変わっていたかを聞いていけば、本人も気づいていなかった原因の輪郭が出てくる。猫背そのものより、その手前の生活の変わり目に手がかりがあることが多い。
それから、この質問を「いつから」より前に置くことにした。
鏡を最後に意識して見たのはいつか。これは「いつから気になり始めたか」よりも、本人にとって思い出しやすい質問なのかもしれない。
順番を変えてから、問診にかかる時間は少し延びた。15分くらいだったのが、20分を超えることもある。ただ、施術後に「思っていたよりちゃんと聞いてもらえた」と言われることが増えた気もする。気のせいかもしれないけれど。
質問の中身ではなく、順番を整える。
現場監督をやっていた頃の癖だと思う。あの頃は工程の段取りで、同じ材料・同じ職人でも、順番ひとつで現場の流れが変わることがあった。問診も似ているのかもしれない。聞いていることは同じでも、先に何を聞くかで、相手が思い出せる景色が変わる。
まだ正解だとは思っていない。
来年の春までにまた順番を見直すかもしれないし、3つ目を別の質問に差し替えるかもしれない。ただ、しばらくはこの順番で続けてみるつもりでいる。