同じ巣箱を30年置いてきた畑で、今年気づいた小さな変化
同じ巣箱を30年置いてきた畑で、今年気づいた小さな変化
県境の山際に、義父の代から借りている畑がある。
そこに巣箱を初めて置いたのが1995年の春で、今年で31年目になる。場所も向きも、ほとんど変えていない。
今年の春の内検が一段落したので、夜になって過去の記録ノートを並べてみた。
並べると、数字が少しずつずれているのが分かる。事件と呼ぶほどではない。ただ、ずれている。
今年の春の記録
巣箱は12群。冬越し前は14群あったが、2群は12月の終わりに無王のまま消えた。
これは特別なことではない。毎年1群か2群は越せない。
3月の最終週に最初の内検をした。例年なら4月の第一週にやることが多いので、1週間ほど早めた。
理由は、近所の梅の開花が2月の半ばで、菜の花がもう3月中旬には咲いていたからだ。蜂たちが思ったよりも動き始めていた。
内検で見たのは、産卵の幅と王台の有無、それから蜜蓋の様子。
今年は12群のうち9群で蜂児の幅が広く、巣脾の縁まで産卵が伸びていた。これは例年の同じ時期と比べてやや早い。王台はまだ立っていなかった。蜜蓋は薄い色のものが多く、新しい蜜が入っていることが分かる。
ここまでは、いつもの春だ。
30年分のノートを並べる
夜、台所の机に古いノートを積んだ。1995年からのものは紙が黄ばんで、表紙が反っている。
私は何冊もに分けず、A5のノート1冊を3年で使い切る形で続けてきた。だから10冊ちょっとで30年分になる。
内検の日付と、群数と、その日の気温と、近隣の主な開花を1行ずつ書いてきただけだ。文は短い。誰かに見せるつもりで書いていない。
開いて気づくのは、開花日のずれだった。
| 年 | 梅の開花 | 菜の花の盛り | アカシアの開花 | みかんの開花 |
|---|---|---|---|---|
| 1996春 | 3月3日 | 4月7日 | 5月12日 | 5月20日 |
| 2006春 | 3月1日 | 4月5日 | 5月10日 | 5月18日 |
| 2016春 | 2月25日 | 4月1日 | 5月7日 | 5月15日 |
| 2026春 | 2月14日 | 3月18日 | 4月29日 | 5月8日 |
数字を眺めると、30年で梅は2週間以上早くなっている。アカシアも2週間早い。みかんも10日ほど早い。
これは私の畑1か所での観察だから、地域全体の話とは言えない。ただ、同じ場所で同じ目で見続けた数字としては、無視できない。
早まったぶんだけ、何かが揃わなくなっている
問題は、開花が早くなっていることそのものではない。
早まっても、蜂が早く動き出せば採蜜量は変わらないはずだ。実際、4月までの初蜜の量は、ここ数年であまり下がっていない。
気になっているのは、開花どうしの「間」だ。
昔は菜の花とアカシアの間に1か月以上あった。蜂はその間に体を整え、群を増やし、アカシアの主蜜源に備える時間があった。
今年は菜の花の盛りが3月中旬で、アカシアが4月末。1か月半空いている。空きが広すぎて、その間に貯蜜が一度減る。減ったところで一度、給餌を考えなければならないかもしれない、と内検のあと考えていた。
逆に去年は、菜の花とアカシアが近くなりすぎた年だった。
近いと一見有利に見えるが、群がまだ十分に育っていない時期にアカシアが来ると、採蜜のタイミングを逃す。これも観察した。
開花が早くなる、というだけなら対応の仕様がある。
早くなり方が花ごとに違って、毎年順番がずれる、というのが厄介らしい。30年並べてみて、ようやくそう感じている。
蜜の味のことだけ、少し書いておく
今年の初蜜は、菜の花のあとに採れた百花だった。
舐めると、菜の花の濃さよりも、雑木のほうの軽い香りが先に来る。それから少し時間を置いて、菜の花の甘さが追いかけてくる。後味は短く、口の中に残らない。これは去年とほぼ同じ。
去年と違うのは、薄い柑橘の香りが混じっていることだ。
近くにみかん畑があるわけではないが、車で20分の場所に小さな柑橘園がある。今年はみかんの開花が早くて、ちょうど採蜜の前に重なった可能性がある。
妻に味見してもらったら、「言われなければ気づかない程度だけど、確かにみかんっぽい後味がある」と言われた。これは販売用のラベルには書かない。書けるほど確かな話ではない。ただ、自分のノートには書いた。
30年置いてきて、今年気づいたこと
同じ畑に同じ巣箱を置き続けても、毎年同じことが起きるわけではない、というのは最初から知っていた。
ただ、20年30年と並べて初めて見えてくるのは、変化の幅ではなく、「変化のばらつき方」だと今年思った。
ばらつき方が変わると、こちらの段取りが追いつかなくなる。
30年で身につけた春の段取りは、たぶん10年後にはもう一度作り直すことになる気がしている。
ノートを閉じて、湯呑みのほうじ茶が冷めているのに気づいた。
来週もう一度、12群の内検を回ろうと思っている。今度は王台が出ているかもしれない。