新人時代に怒られた「数字の精度」が、推し活で生きた話
新人時代に怒られた「数字の精度」が、推し活で生きた話
5月の遠征費を集計していたら、入行1年目の春に先輩のHさんに怒られた日のことを、急に思い出した。
窓口で扱う数字に「だいたい」はないから、と何度も言われた。当時は正直、しつこいなと感じていた。
1年目の春、5円が合わなかった日
入って3ヶ月目の5月末、締めの現金が5円合わなかった。
全体の取扱高からすれば、5円なんて誤差にもならない金額だ。だから私は、なんとなく「どこかで間違えたんだろうな」くらいの顔をしてHさんに報告した。
そこからが長かった。
Hさんは「5円は5円。1円ずれていたら、それは合っていないということだ」と言って、私の伝票を最初の1枚から全部見直した。手元に戻ってきたのは、結局1時間半後。原因は、両替時に私が500円玉と50円玉を見間違えて、入金処理を1枚ぶん多く打っていたところだった。打ち消し処理の伝票を起こして、ようやくその日の締めが終わった。
帰り道、駅まで歩きながら、なんでこんなに丁寧にやるんだろうと正直思っていた。
たかが5円。お客様にも迷惑をかけていない。500円玉を見間違えるなんて、初心者がやる類のミスで、誰でもいつかは通る道のはず。なのにHさんは、まるで5万円が合わなかったときと同じ顔をしていた。
そのあと半年くらい、私は「精度」という言葉を聞くたびに少しだけ身構えるようになった。
「だいたい」を抜く癖
それから5年が経つ。
窓口の数字で1円ずれることは、いまでもときどきある。そのたびに私は1枚目の伝票から見直す。これはもう癖というか、見直さずに帰れない身体になってしまった。
仕事の話としてはここで終わる。よくある「新人時代の苦い話が、いまの礎です」というやつだ。
正直、それで終わっていれば、たぶん私はこの話を文章にしようとは思わなかった。書きたかったのは、ここから先だ。
推し活の現場で、その癖が顔を出した
去年の秋、推しグループの全国ツアーの先行抽選があった。
ファンクラブ会員の先行は、申し込みフォームの送信時刻と、入金期限と、当落発表日が、それぞれ別の日程で動く。同行者ぶんを含めて2枚ずつ、3公演ぶんを申し込んだので、合計6枚ぶんの管理が必要だった。
普段ならスマホのメモに公演日と座席のメモを残すくらいで、わりとざっくり管理しているタイプもいるだろうな、と思う。
でも、6枚の入金期限が公演ごとに前後していて、しかも先行発表→入金→次の公演の発表、というふうに時系列が重なる時期があった。気づいたら、自分はExcelを立ち上げて、申し込み番号と、申込時刻(秒単位)と、入金期限日と、当落発表予定日を、1行ずつ並べていた。
入金期限のセルには、銀行の引落タイミングを逆算した「いつまでに口座に何円残しておけば確実か」まで書いてあった。
スプレッドシートを保存したあと、そこで初めて気づいた。これ、Hさんに怒られていた頃の伝票の見直しと、ほぼ同じことをしている、と。
申込時刻を秒単位で書いていたのは、抽選の順番に効くという噂を聞いたからで(本当のところは分からない)、その「念のため」の感覚が、新人時代に「2枚目の伝票も念のためもう一度見ろ」と言われていた感覚と、たぶん地続きだった。
6枚のチケット、入金1日前倒し
入金期限が一番厳しかったのは、11月23日の現場ぶんで、期限は11月14日の23:59だった。
私は引落日を1日前倒しして、11月13日のうちに済ませた。なぜかというと、11月14日が金曜で、自分の銀行の都合で深夜の処理にラグが出る可能性が、頭をよぎったからだ。
これは完全に職業病だと思っている😅
普通の人は期限当日に振り込む。なんなら期限の3時間前でも、特に何の問題もない。でも、「他行宛て」「金曜深夜」「自分の口座から」の3条件が重なった瞬間に、私の中で警報が鳴った。これは「ちょっとリスクある組合せだから前倒しした方がいい」と、身体が先に判断していた。
結果として、6枚ぶん全部、当落発表日の前に入金確認まで終わっていた。
当落の結果は、3公演中2公演当選。チケット代の合計は、同行者ぶんも含めて78,400円。当選2公演ぶんを引いた残りは、規約どおりに払戻し処理がかかった。この払戻しのタイミングまで、私は手元のExcelの「払戻し予定日」のセルにメモしていた。
「ありがたい」とは、ちょっと違う
Hさんへの感情を、もし聞かれたら、ありがたかったですと答えるとは思う。
でも、それだけで片づけられるかというと、ちょっと違う。
1年目の5月に1時間半残業させられたあの夜は、しんどかったし、家に帰ってからもなんか釈然としなかった。あの時の私の感情は「面倒くさい人だ」だったし、その感情を、5年経った今、推し活の現場での便利さで上書きしていいのかというと、それは違う気がする。
たぶん、いま手元にある「6枚のチケットを秒単位で管理する癖」は、Hさんが私に植え付けたものだ。これは事実として認めるしかない。だけど、その癖を私が好きでやっているかというと、半分はそうで、半分はそうじゃない。
だって、推し活くらいは「ざっくり払って楽しむ」でもよかったはずだ。なのに私は、引落タイミングを逆算して、払戻し予定日までシートにメモしている。
これは仕事に侵食されている、とも言えるし、仕事のスキルが趣味に転用されている、とも言える。どっちで呼ぶかで、Hさんへの感情の色がだいぶ変わる。
いまの私は、その呼び方をまだ決めていない。
5月の遠征費の話に戻る
集計していた5月の遠征費は、福岡公演ぶんで、合計37,820円だった。
新幹線往復が22,000円、ホテル代が9,800円、現場での飲食が3,200円、グッズが2,820円。グッズの2,820円のうち、ランダム缶バッジが1,200円。これは推しが出る確率が1/12で、結果としては推しではない別メンバーが出た。
確率1/12のものに1,200円。
これを「期待値で考えると割に合わない」と書くか、「現場の楽しみだから値段じゃない」と書くか、私はずっと迷っている。
たぶん両方が正しい。Hさんに教わったのは前者の見方で、推し活が私に教えてくれたのは後者だ。窓口でも家でも、私はその両方を、いまも往復している🚄