現場巡回で、舗装の沈下を「色」より「水たまりの形」で見つける癖

3 months ago
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現場巡回で、舗装の沈下を「色」より「水たまりの形」で見つける癖

雨が上がった翌朝の巡回は、私のなかでは半日早く出る日と決めている。
朝礼を済ませて9時前には公用車を出す。乾きかけの路面に残った水たまりの形を見ながら、所管路線を回っていく。これは20年以上前、係長になる前から続けている習慣で、たぶん私の巡回の一番の癖だ。

舗装の沈下を見るとき、若い頃の私はアスファルトの色の濃淡を頼りにしていた。色が周囲より黒っぽく沈んでいたら、その箇所は撓んでいる可能性が高い、と先輩のMさんに教わった。これは点検要領にも書かれている見方で、間違っていない。ただ、現場でこの見方だけでやっていると、見落としが出る。

色で見ていた頃の見落とし

色の濃淡で沈下を判断するのが難しいのは、舗装の経年変色や補修跡が混ざるからだ。
うちの自治体は山あいの集落も抱えていて、所管路線の延長は300kmを超える。古い区間は十数年前のオーバーレイ跡が点々と残っていて、補修箇所だけ色が濃く、その周囲はやや褪せている。こうなると色だけでは沈下を拾い切れない。

40代の前半に1度、市街地の交差点付近で5mm程度の沈下を見落としたことがある。
直線の流入部で、平場の色がほぼ均一だった区間だった。半年後の定期点検でクラックが進行し、結局その四半期の補修起工伺で対応することになった。当時の課長に「初動が遅れた」と言われたのは、いまでも覚えている。あれ以来、色だけを頼りにするのをやめた。

水たまりの形は、地形の正直な等高線だ

雨が上がったあとの路面を見ると、水たまりは舗装の凹みに沿って残る。
これは当たり前の物理だが、業務の道具として使い始めると、思ったより情報量が多い。色は経年や補修で嘘をつくが、水たまりは嘘をつかない。沈下があれば、そこに水が溜まる。1mmや2mmの沈下では水たまりにならないので、要点検レベル(5mm以上)の沈下を選り分ける一次フィルタにちょうどよい、と私は考えている。

私が特に気にして見るのは、水たまりの「縁の形」だ。

  • 縁が直線的で、舗装の打継目に沿って細長く伸びるもの → 打継目の不陸。表層の沈下というより、補修境界の段差を疑う
  • 縁が楕円で、独立した小さな水たまりが3つ4つ並ぶもの → 局所的な沈下。下層の不良や路盤の支持力低下が疑われる
  • 縁が大きく蛇行し、わだち掘れに沿って細長くつながるもの → 重交通による轍。これは沈下というより塑性変形

写真と一緒に巡回記録に残すと、後日の現場確認で対応の優先度を決めやすい。
私は復命書の添付資料に、雨上がりの写真を必ず1枚は入れるようにしている。乾いてからの写真より、状況が読み手に伝わる。

雨後の半日を、巡回の優先帯にしている

これに気づいてからは、雨が上がるタイミングを天気予報で見るようになった。
朝方まで降って日中晴れる、というパターンの日は、巡回の組み替えを課内会議で提案する。所管路線300kmを月1回で回るうちの体制では、雨後の路面が見られる日は限られている。年間でせいぜい20回ほどしかない。この日を逃すと、また1か月先になる。

ただし、雨が強すぎた翌朝は別だ。
水たまりが広く繋がりすぎて、個別の凹みの輪郭が読めなくなる。降雨量で言えば1時間あたり10mm以上が連続した翌朝は、半日待って、表面の水が引いてからのほうが見やすい。これは何度か外して覚えた。逆に5mm程度の小雨のあとは、水たまりが小さくて点在しやすく、私には一番見やすい条件だ。

降雨量の目安翌朝の見やすさ巡回時刻の目安
小雨(数mm程度)縁が読みやすい翌朝9時前後
中雨(5-10mm)普通に読める翌朝10時前後
強雨(10mm/h以上連続)表面水が多くて読みにくい翌昼13時以降

数字はうちの所管エリアの経験値で、他の自治体には当てはまらないかもしれない。
ただ「降雨直後ではなく、半日ずらして見る」という発想は、どこの土木現場でも使えるはずだと考えている。

後輩への伝え方が難しい

ことしの春に異動してきた30代のSさんを、何度か巡回に同行させた。
最初の2回は、私が「ここ」と指差した水たまりを、そのままメモしてもらうだけだった。3回目から「Sさんから見て、気になる水たまりはどれですか」と聞くようにした。最初は迷いながら、それでも自分で1つ2つ指してくれる。当たることもあれば、私が気にしていない水たまりを指すこともある。

外したときに「違う」と言わないように気をつけている。
「私はここを気にしている」と並べて見せて、なぜそこかを理由まで言うようにする。色なら色、縁の形なら縁の形、と分けて伝える。これは、自分が若い頃にMさんという先輩から教わった伝え方の真似だ。あの頃は、何が正解か分からないまま現場に出ていたので、理由まで言ってもらえると助かった記憶がある。

それでもまだ、Sさんに半分も渡せていない気がする。
水たまりの形を読むのは、文章にすると単純だが、何百回と見て初めて目に入ってくる種類のものだ。私が20年かけて身につけたものを、半年で渡そうとするのは、たぶん私の側の傲慢だと思う。何年か一緒に巡回するなかで、自分で「ああ、この縁の形か」と気づいてもらうしかないと考えている。

来期の巡回計画にどう盛り込むか

来年度の所管路線の巡回計画を、いまの時期に少しずつ組み始めている。
雨後の半日を意識的に確保する枠を、年間20日ほど見込んでおきたい。これは課長にも相談しないといけない。執行体制の問題もあるので、係長の私の一存では決まらない。ただ、執行のなかで沈下の早期発見率が上がれば、補修起工伺の根拠データとしても使えるはずだ。

復命書の書き方も、来年度から少し変えようと考えている。
雨後の水たまり写真と、晴天時の写真を1組で並べる様式にしたい。次回の課内会議で提案してみる。様式変更は決裁が要るので、すぐには通らないかもしれないが、まずは私の係内だけでも始めてみるつもりだ。


夜になって、明日の巡回ルートをメモした手帳を閉じた。
今夜の予報では、未明に通り雨があるらしい。朝の冷え込みを考えると、表面水の引きはやや遅いだろう。出発は9時半に少しずらすか、と迷っている。こういうことを、毎週末のように考えている自分が、たまにおかしく思える。

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