不眠の問診で「寝る前1時間」を必ず聞くようになってから、見えてきたこと
不眠の問診で「寝る前1時間」を必ず聞くようになってから、見えてきたこと
去年の秋ごろから、不眠を訴えて来られる方には、必ず「寝る前1時間に何をしていますか」と聞くようにしている。
それまでは「寝つきにどのくらいかかりますか」「夜中に目が覚めますか」を中心に聞いていた。聞いていなかったわけではないけれど、必ずではなかった。半年ほど続けてみて、自分のなかでいくつか見えてきたことがある。今夜はそれを少し書いておきたい。
不眠を訴える方の多くは、ベッドに入ってからの話を語りたがる。これは自然なことだと思う。眠れないという苦しさは、ベッドの上で経験される。だから記憶に残っているのもその時間帯で、こちらが聞かなくても、寝返りの回数や時計を見た時刻まで出てくる。
ただ、ベッドに入ってからの話を10分聞いても、原因はほとんど見えない。
むしろ、見立ての手がかりは、ベッドに入る前の1時間にあることが多い。これは不眠そのものより、不眠を作り出している側の時間だからだと思う。
まず、出てくるのは仕事の続き
「寝る前1時間に何をしていますか」と聞くと、最初はだいたい「特に何も」「テレビを見ているくらい」と返ってくる。
そこから「もう少し具体的に、何時に何をしていますか」と続けると、出てくる答えはずいぶん違ってくる。
多いのは、ベッドの中で仕事のメールを返している、というケース。
本人は「もう寝るつもり」で布団に入っているのだけれど、スマホを開いて、ついでに未読のメールを片づけてしまう。15分のつもりが40分になる、ということが続いている。これは在宅勤務の方に特に多い気がする。
それから、寝る直前に翌日の予定を確認している方。
カレンダーを開いて、明日の会議の数を数える。週の始まりに近い夜だと、予定の重さが一気に押し寄せる。本人はそれを「準備」だと思っている。けれど身体のほうは、その時間帯で交感神経をもう一度立て直している。
問診のなかで一番大事なのは、患者さんが話さなかったことのほうだと思う。
「特に何もしていない」のあとに出てくる、具体的な行動。そこに原因の輪郭がある気がする。
食事と入浴の終わり時間
寝る前1時間を聞き始めて、はっきり傾向として見えてきたのは食事と入浴の終わり時間だ。
夕食を食べ終えてから2時間以内に寝床に入っている方は、寝つきにかかる時間が比較的長い印象がある。本人は「夕食を食べ終えた時間」を覚えていないことが多くて、こちらが具体的に聞くまで気づかない。
入浴は逆で、寝る直前30分以内に上がっている方のほうが寝つきがいい、というわけではない。深部体温が下がりきる前にベッドに入ると、かえって浅い眠りになることがある。これは何人かに聞いていてだんだん見えてきた。本に書いてあることでもあるけれど、自分の問診の中で確かめられたという感覚があって、最近は本人にもそのまま伝えている。
東洋医学的には「胃不和則臥不安」という言葉がある。胃が落ち着かないと寝られない、ということだ。
古典の話を持ち出すと身構える方もいるので、私は「胃が動いている時間に眠ろうとしているのかもしれません」と置き換えて話している。だいたい、そこで本人が「あ」という顔をする。本人のなかでつながった瞬間で、私はその顔を見るのが少し好きだ。
自分でも気づいていない儀式
もうひとつ、寝る前1時間を聞くようになって気づいたのは、人にはそれぞれ「寝る前の儀式」がある、ということ。
本人は儀式と思っていないことが多い。ただ毎晩、同じ手順を踏んでいる。
歯磨きの前に冷蔵庫を開けてしまう。
電気を消したあと、もう一度だけスマホを見る。
布団に入る前に、玄関の鍵を確認しに行く。
こういう細かい儀式は、聞かないと出てこない。問診票に書く方は、まずいない。
そして儀式の中身そのものより、その儀式が「今日もちゃんとできたか」のほうが、睡眠の質と相関している気がする。儀式ができなかった夜は、寝つきが悪くなる方が、わりといる。
これは私の仮説の段階で、まだ確かめている途中だ。
ただ、寝る前1時間の質問をしなければ、こういう話は出てこなかったと思う。
「寝る前1時間」を聞くようになって、問診の時間は数分長くなった。
ただ、施術そのものより、この問診のほうに価値がある方が一定数いることも、最近は分かってきた。鍼を構える前に、本人がまだ言葉にしていなかった習慣を、一緒に並べてみる時間。それだけで、その夜の寝つきが少し違う、と次回に教えてくれる方もいる。
不眠は身体の問題のように見えて、生活の段取りの問題でもあるのだろう。
段取りの言葉が、現場監督だった頃の癖でつい出てしまう。ただ、不眠の問診ではこの言葉が、わりと役に立つ気がしている。