ドリップ速度を5段階で変えて、アフターの差を確かめた
ドリップ速度を5段階で変えて、アフターの差を確かめた
閉店後の店のカウンターで、ドリップ速度を5段階に振った抽出テストをやった。
ずっと気になっていたことがあって、湯の注ぎ方をゆっくりにすると、アフターの長さが変わるのは分かっていたが、その変化が線形なのか、それともどこかで折り返すのかが、感覚としては掴めていなかった。今日はそれを確かめる夜にした。
ドリップ速度というのは、抽出にかける総時間と、湯を注ぐ細さの両方を含む。今日は総時間を主にいじって、注ぎの太さは中庸で固定した。
条件を揃える
豆はここ2週間使っているコロンビア・ナリーニョのシティ。焙煎から7日経った状態だ。
グラインドはみるっこの目盛り4の中央、メッシュは中細挽き。粉量18g、湯温88℃、湯量270g、ドリッパーはカリタの3つ穴。蒸らしは全パターンで30秒、湯量30g固定。蒸らしの後の本注ぎを5段階に振った。
| 段階 | 本注ぎ時間 | 総抽出時間 | 注ぎ方の感覚 |
|---|---|---|---|
| 1(最速) | 1分20秒 | 1分50秒 | 太めの線で押し込む感じ |
| 2 | 2分00秒 | 2分30秒 | 普段よりやや速い |
| 3(中庸) | 2分40秒 | 3分10秒 | 私の普段の注ぎ |
| 4 | 3分20秒 | 3分50秒 | 細い線でゆっくり |
| 5(最遅) | 4分10秒 | 4分40秒 | 一滴ずつ落とすくらい |
5杯を順番に淹れて、それぞれをガラスのサーバーから同じカップに注ぎ直して、間に水を挟みながら飲んだ。5杯目を飲み終わるまでに1時間半かかった。淹れている間、店内のジャズのレコードが3枚回り切った。
数字と感覚の対応
抽出後にTDSを測って、感想は飲んだ直後にカウンターのメモ用紙に書いた。
| 段階 | TDS | 収率 | 酸味 | 苦味 | ボディ | アフター長さ |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 1 | 1.18% | 17.7% | 弱 | 弱 | 軽 | 短(2-3秒) |
| 2 | 1.31% | 19.6% | 中 | 弱 | 中軽 | 中(5秒) |
| 3 | 1.39% | 20.8% | 中 | 中 | 中 | 中長(8秒) |
| 4 | 1.45% | 21.7% | 弱 | 中 | 中重 | 長(12秒) |
| 5 | 1.41% | 21.1% | 弱 | 強 | 重 | 中(6秒、苦味で覆われる) |
1から4までは、数字も感覚もきれいに動く。
ドリップが遅くなるほどTDSと収率が上がり、ボディが重くなり、アフターが伸びる。これは想定通りだった。教科書通りで、特に新しい発見はない。
ただ、4から5に行ったところで、何かが反転した。
5段階目のTDSは4段階目より少し落ちる。アフターも明らかに短くなる。代わりに、苦味だけが強く出て、舌の真ん中に居座る飲み方になった。アフターの華やかさは消えて、苦味が舌に張り付く。
折り返し点はどこにあるのか
4と5の間で何かが起きている、というのが今日の収穫だ。
理屈で考えれば、抽出時間が長くなるほど不要な成分が出てきて、苦味と渋味が増す。それは知っている。ただ、その境目を自分の舌で確かめたのは初めてだった。
普段、私が店で淹れるドリップは段階3に近い。
これは30年やってきて、いろんな豆と速度の組み合わせの中で、自然と落ち着いた速度だ。意識して選んだわけではなく、毎日続けているうちにそこに集まった。今日のテストで、段階3と段階4の間、つまり総抽出時間で3分から3分30秒の間に、コロンビアのこの焙煎度ではアフターが最も気持ちよく伸びる帯がある、ということが分かった。
帯と言っても、たぶん30秒くらいの幅しかない。
30秒を過ぎると、伸びるはずだったアフターが、苦味に塗りつぶされて見えなくなる。これは折り返し点と言うより、崖、と言った方が近いかもしれない。
客に出すのは段階3か4の間と決めた
5杯を飲み比べて、結論としては、店で出すのは段階3と4の間に絞ろうと思った。
段階1と2はうちの店の客層には軽すぎる。段階5は深煎りで出すならありかもしれないが、コロンビアのシティでこれをやると豆の良さが消える。
うちは普段、ホットで出すマグカップの容量と、サーバーの落ち口の高さの関係で、無意識に段階3寄りに揃っている。それが今日確認できたのは、自分の動作の根拠が30年やってきてやっと見えた、という感じだ。動作には理由があった。先に動作があって、後から理由が分かる、というのは、こういう商売だとよくある。
浅煎りでもう一度やる必要がある
今日はコロンビアのシティ1種類でやったが、エチオピアのミディアムやブラジルのフレンチで同じことをやると、たぶん折り返し点の位置がずれる。
浅煎りは抽出が難しくて、遅く淹れすぎると渋味が立ちやすい。深煎りは速く淹れすぎると、酸味だけ残って苦味が出てこない。豆の焙煎度ごとに、段階1から5の意味が違ってくるはずだ。
来週中に、イルガチェフェとブラジルで同じテストをやる。
今日のメモはそのまま明日、店のテスト記録ノートに転記しておく。手書きノートと別に、最近はこういう形式で文字でも残すようにしている。表だけだと後から読んだときに、何を考えてその数字を取ったかが分からなくなる。
静かな夜に、コーヒーを5杯飲む
5杯を淹れ終わって、最後の杯を飲み終わったのは0時前だった。
カップを片付けて、レコードの最後の1枚を裏返して、もう一度シンクで道具を洗った。テストを5杯やった夜は、いつもよりカウンターが少しコーヒー臭い。換気扇を回しても、生豆の袋の匂いと混じって、店全体が珈琲屋らしい匂いに戻る。
明日は雨らしい。
雨の日は来客が落ちるので、もう少し焙煎の時間が取れる。今日のテストの結果を踏まえて、コロンビアの3月後半ロットの煎り止めを5℃落としてみようと思う。煎り止めを落とすと、段階4の崖が少し向こうにずれるはずだ。気がする。